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 東京医科大が7日に記者会見し、入試で男子受験生を優遇していたことを認めた。改めて女性差別だとの抗議の声が上がる一方で、「以前から言われていた」と語る関係者は少なくない。女性の進出を阻む医師の世界の「ガラスの天井」を探った。【中村かさね、宇多川はるか/統合デジタル取材センター】

 「せめて受験だけは平等に」
 東京医大による女子を一律に減点する得点操作について、ツイッター上では

 <#私たちは女性差別に怒っていい>

などとハッシュタグ(検索の目印)つきで、抗議の声が次々に上がっている。
 抗議では
 <感覚としては「女性が足を切られてる」のほうが近い。膝下まで切られてる。身を切られてる>
 <医学を志す優秀な女性は海外に出た方がいい>
 <すごくつらい。理不尽なこと多いけど、せめて受験だけは平等に>
 <知性への冒とくだ>
などと女性差別にストレートに憤る声が多数投稿されている。
 このほか、
 <東京医大出身の男性医師が主治医になったら、下駄履かせてもらって大学入った人なんだと思う。男性も怒るべきだ>
 <男性も怒っていい。男性はこき使っても倒れない奴隷とみなされてる>
など、男性側の問題でもあるとの指摘も出ている。
 その一方で、東京医大の問題を当然視したり、驚きはないとする投稿もある。
 <女性医師が増えることを危惧して女子の合格者数を抑えているという話は、他の医学部でもときどき聞きます>
 <驚いてる人が多いけど、10年以上前からそういう話は聞いたことあった>
 <女性差別だとか騒ぐのは的外れ。これ以上女子が増えて、退職だの育休だの早退だの余裕がない>
 また、受験生だと名乗るこんな投稿もあった。
 <男子受験生の立場としては『東京医大しくじりやがって』くらいに思ってる>

 女性増えると外科いなくなる?
 5日のTBS系「サンデー・ジャポン」では、医師でタレントの西川史子さんが、東京医大の男子優遇について「当たり前。(東京医大に)限らない」と発言、波紋を広げた。西川さんは番組で女性医師が増えれば「眼科医と皮膚科医だらけになっちゃう」と指摘。「重たい人の股関節脱臼を背負えるかっていったら女性は無理。外科医になってくれるような男手が必要なんです。おなかが大きくて手術はできない。男性ができることと女性ができることってやっぱり違う」などと主張した。
 ネット上で<一理ある>や<差別だ>と賛否両論が広がる中、産婦人科の宋美玄(ソン・ミヒョン)医師はツイッターでこう発信した。
 <女医が増えると眼科や皮膚科が増えて外科がいなくなるという意見を見るのだけど、それは働き方改革のない外科であって、他の医療職と分業したりチームで担当したりすれば女性でずっと外科医として働く人も多いと思う>

 
以前から「男子優遇」を予想
 東京医大の問題をどう見るか、女性医師たちに聞いた。
         ◇
 <女性医師を「増やさない」というガラスの天井>

 富山市の産婦人科「女性クリニックWe!富山」の種部恭子院長は昨年の8月と9月、自身が理事を務める一般社団法人「日本女性医療者連合」の公式サイト上で2回に分けてこんなタイトルのリポートを発表した。
 内容はこうだ。
 医師国家試験合格者に女性が占める割合は2000年に3割を超え、このまま増え続けるだろうと見られていた。ところが予想に反して3割台前半で足踏みし、15年以上も変化がない。「入り口」に当たる大学入試に目を向けると、他学部では軒並み女子の受験生に占める合格者の割合が男子よりも高いのに、医学部だけは女性の合格率が男性より低い。国公立大の医学部でも男女の合格率の差は歴然としている。ところが、国家試験の合格率は女性が男性をわずかに上回っている。入学時に「ゲート・コントロール」されているのではないか−−。

 種部さんは「得点操作の証拠はなかったが、データを並べてみて、やはり不自然だと思っていた。面接や小論文の評価内容、試験官の男女比も気になっていた」と話す。

 経済協力開発機構(OECD)の2015年のデータでは、日本の医師に女性が占める比率は20.4%で、加盟国の平均(39.3%)を大きく下回り最下位だ。

 種部さんと同様、公益社団法人「日本女医会」(前田佳子会長)も、医学部入学者の女性比率が1995年以降、3割と横ばいである点に注目。今回の問題を受けて「一部の大学ではすでに女子医学生が50%を超えてきているにもかかわらず、全体の割合が変わらないのには何か理由があるのではないかと思わずにはいられない」とのコメントを発表した。

 
医療界のパンドラの箱が開いた
 種部さんによれば、臨床現場では優秀な女医が大勢活躍しているのに、教授会や学会に参加すると周りは男性ばかり。比較的女性が多いとされる皮膚科や眼科、産婦人科などの学会ですら、女性の役員はほとんどいない。「女性の教授や役員がいないのはおかしい」と声を 上げても黙殺されてきた。

 医師の時間外労働は当然視されている。厚生労働省によると、週60時間以上働く病院の常勤勤務医は男性で41%、女性で28%に上る。呼び出し(オンコール)の待機時間は勤務時間としてカウントすらされていない。

 種部さんは「男性医師を中心とした『滅私奉公』のうえに医療制度が成り立っている。そのこと自体が問題なのです」と指摘する。「東京医大の不正が発覚してパンドラの箱は開いた。これを機に日本の医療政策をどうすべきか国民的な議論をすべきです」
 医師の「滅私奉公」の背景には、安易に病院に行く「コンビニ受診」の問題もあるとされる。種部さんは憤る。「医療制度を維持するには、今のように安くて便利な医療を見直す必要がある。女は結婚や出産で辞めるから、と女性に責任を押しつけるのは話のすり替え。非常に腹が立ちます」

 
「定員操作は経営的にあり得る」
 もう一人。東京女子医大の心臓血管外科助教で日本女性外科医会代表世話人の冨沢康子医師も「不公平だ。女子の受験生が本当に可愛そうだと思う」と、東京医大を厳しく批判する。それでも「男女の定員操作は私立大学なら経営的にあり得る話だ」と付け加えた。分院がある大学病院で転勤に対応でき、勤務時間の制限や離職のリスクも少ないのは男性医師−−という考え方が医療現場で抜きがたくあるからだ。「だからこそ、受験という入り口で操作するのではなく、どんな支援で女性医師が継続就労できるのか、どうすれば女性医師を雇 っても病院経営が成り立つのかを考えていかなければならない」と強調する。

 冨沢さんが所属する女性外科医らの組織は2013年、全国の医学部・医科大付属病院を対象に女性医師の就労継続問題でアンケートを実施。計80の本院で回答した72施設のう ち、常勤医の妊娠中の当直免除規定は29施設、産休中の代替要員の準備は17施設にとどまった。また、院内保育施設は63施設にあるが、24時間保育は32施設。時短勤務は女性医師支援策の一つとされるが、雇用形態が時短勤務でも利用できるのは10施設しかなかった。

 
医師夫婦の家事・育児の担い手は
 この調査結果も踏まえ、冨沢さんは「産休中の代替要員がいなければ、同僚への負担が増 え不公平感は増す。産休を経てせっかく復帰しても、時短勤務で子供を院内保育に預けられ なかったり、24時間保育がないと当直するのに困ったりする。女性医師へのサポートが足りず、結婚・妊娠・出産をきっかけに女性医師が離職する要因になっている」と分析する。

 現状を変えるには上層部の意識改革が必要だと冨沢さんは考えている。「病院経営にあた る上層部は女性医師と一緒に働いたことがなく、産休のとり方さえ知らない男性が多い。部下の家族の事情など眼中になく、特に外科は24時間働ける医師を好む傾向がある」

 女性医師の割合が高い米国では、部下の家族への配慮も含めたマネジメント能力が管理職 に問われるという。冨沢さんは「女性医師に『出産したら必ず戻ってきてね』と言えるよう な上司にするためのリーダーシップ教育が必要です」と話す。

 また、医師同士の結婚が多く、既婚の女性外科医では夫の約7割が医師とされる。冨沢さんは「女性が家事や育児を担うという考え方では女性医師の離職が進むのは当然。男性医師 も家事、育児を分担しなければならない」と話し、男性医師が家事や子育てを担えるように する意識改革や働き方改革が必要だと強調する。
 
 
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